My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
漸くここまで来られたのだ。我ながら良く頑張ったと思う。
こんなにサバイバルな生活は勿論生まれて初めてだ。
初めあんなに悲鳴を上げていた足も、流石に慣れてきたのかそこまで気にすることもなくなっていた。
草の匂いのする風の中に、微かに潮の香りが混じったような気がして私の心は久し振りに浮き立った。
もともと海が好きなのもあるが、ここ数日山や草原ばかりを見ていたから尚更だ。――なのに。
「ふぅ、漸く見えてきたか。思ったよりもかかっちまったな」
前を歩くラグからそんな声が聞こえて来て、私の気分は急落する。
「ごめんね、歩くの遅くて」
「…………」
(否定しないし~)
私がこっそり口を尖らせ歩き始めると今度は後ろから声がかかった。
「カノンはルバートは初めてか、……あぁ、田舎から出てきたと言っていたな」
「え? あ、はい」
「なら色々と見て回るといい。大きな街だ、服も流行のものが揃っているしな、食事も」
「そんなヒマは無い。着いたらすぐに港に入る」
セリーンの台詞を遮るようにラグが抑揚の無い声で言う。
途端彼女の眉がぴくりと跳ね上がった。
私はひとり肩を窄める。
二人のこんな場面はもう何度目になるだろう。
流石に慣れてはきたが、私を真ん中に挟んだ状態での喧嘩は勘弁して欲しかった。
それでなくとも二人は身長が高くて、平均並みの自分が間に入ると体が小さくなってしまったような感覚に陥るのだ。
「少しくらいいいだろう」
「良くねぇ。すぐに船を確保しねーと明日になっちまうかもしれねぇだろ」
「そんなに急いでいるなら魔導術で今すぐ港まで飛んで行けばいいだろう。貴様程の力があるならそのくらい簡単なはずだ」
「冗談じゃねぇ、金輪際お前の前じゃ術は使わねーよ」
「ほぉ、……私が貴様に切りかかったらどうする?」
「術無しでもなんとかなるだろ」
「ちょ、ちょっと! 二人とも!?」
足を止め睨み合った二人に向かって私は慌てて声を張り上げる。