My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
 そして幸いにも、その兵士達はやはり見覚えのない顔だった。

「何か身分を証明できるものはあるか?」

 不躾に言われる。
 ラグは面倒そうに腰のポケットから小さなバッジのようなものを取り出して兵士に見せた。
 兵士達はそれを見て酷く驚いたように顔を見合わせた。

「こいつは連れだ。それとそいつはセデで雇った傭兵。もういいだろ、急いでんだ」

 ラグが不機嫌そうに言うと、兵士達はなにやら耳打ちし合った。
「少年」「銀の」そんなような単語が聞きとれた。

(やっぱり、私たちを捜しているんだ……)

 そう確信していつの間にか汗ばんでいた手のひらを握り締める。
 兵士たちが私を見た。
 心臓を、鷲掴みにされたような気がした。

「失礼する」

 言うと一人の兵士が寄ってきて私の頭をジロジロと見下ろした。
 私は俯いてぎゅっと目を瞑る。
 酷く速いこの心臓の音が聞こえてしまうのではないかと気が気でなかった。

 だが兵士は思いのほかすぐに私から離れ「よし、入れ」と偉そうに道を開けてくれた。
 私はなるべく平静を装って兵士たちの横を通り過ぎた。

 ――まだ胸がドキドキとしている。

「貴様、ストレッタの術士だったのか……。どうりで」

 セリーンが低い声で言うがラグは前を向いたまま答えなかった。

(ストレッタ?)

 そういえば数日前のあの野盗もその名前を口にしていた。
 訊きたい気持ちは大いにあったがきっとまた怒られると寸前でぐっと我慢する。
 一つわかったのはやはりラグは凄いらしいと言うこと。
 あの兵士たちの驚きようからして、おそらく相当に。

「しかし、あいつらはなんだったんだ? カノンの髪など気にして」

 怪訝そうに言うセリーンに私は「さ、さぁ」と曖昧に答える。

「あ、もしかしてあれか。銀のセイレーンが現れたとか噂になっていたな」

 ドキーっと再び心臓が飛び上がった。
 まさかセリーンの口からその言葉が出てくるとは思わなかった。

「それで兵が出ていたのか。嘘か本当か知らないが、迷惑な話だ」

 溜息交じりに言うセリーンに私は苦笑することしか出来なかった。
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