My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
大きな門を抜けて、まず人の多さに驚いた。
ここ数日ほとんど人気の無い生活を送っていたせいか、驚くというよりその人口密度に圧倒されてしまった。
門からまっすぐに走る大通りにはいくつもの露店が軒を連ね、道行く人々を呼び込む声が盛んに響いていた。
買い物に勤しむ女性達、何やら言い合いをしているおじさん達、そしてその間を縫うようにして走り回る子供達。
グラーヴェ城のあった街も同じくらい人が多かったが、城下町だけあって上品で落ち着きがあった気がする。それに比べ、このルバートはまるで祭りの最中のような活気があった。
先ほどの緊張も忘れて思わず感嘆の溜息が漏れる。
「大きな街だろう。ここには近隣諸国から人が訪れるからな。貿易の街とも呼ばれているんだ」
「へぇ~」
「観光に来たわけじゃねーんだ。さっさと行くぞ」
ラグに促されキョロキョロとさせていた視線を正面に戻し、気付く。
海が見えた。元の世界と変わらない、青い海だ。
ほぼ白で統一されたこの街の建物とのコントラストがとても美しく、そして眩しかった。
おそらく向こうに港があるのだろう。
何度目か露店の主人に明るく声を掛けられ、つられて笑顔になりながらもそそくさと通り過ぎる。
(貿易の街っていうより、商人の街って感じ……)
魚らしきものを焼いている露店の前を通ったときにはその美味しそうな香りにお腹がぐるぐると反応してしまった。焦ってお腹を押さえたが、街の喧騒に掻き消え二人には気づかれずに済んだようだ。
(早く何か食べたいよ~。海鮮料理かぁ)
美味しそうな海の幸を思い描いて私はゴクリと唾を飲み込んだ。
しかしラグの言うとおり、ゆっくりとしていられる時間はなさそうだ。
私達を捜している兵士達。
おそらく「異国の服を着た銀髪の少女」と「魔導術士の少年」の二人を捜しているのだ。