My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
もしあの時ラグが少年の姿だったら危なかったかもしれない。
そして私も、もしあの場で「歌え」と言われていたら――。
私は自分を落ち着かせるため深呼吸をして潮の香りを体いっぱいに吸い込んだ。
やはり一刻も早くこの国を出たほうがいいと再認識した、そのときだ。
人ごみの向こうでただならぬ叫び声が上がった。
びっくりして視線をやると、その一角に人だかりが出来ていた。
なんだろうと気にはなったが、ラグが全く気にする様子無く進んでいくため私は仕方なくその場を通り過ぎようとした。
だが、その直後耳に入ってきた悲痛な声に足が止まってしまった。
「違います! 私は銀のセイレーンなどではありません!」
「煩い! つべこべ言わずについて来いと言っているんだ!」
男の怒声と共に聞こえてくるのは子供の狂ったような泣き声。
「一体何の騒ぎだ?」
セリーンがそちらに足を向けたのをいいことに、私もその後に続く。
人だかりを半ば強引にかき分け進みながら、ドキドキとまた心臓が煩く鳴り出していた。
そして飛び込んできた光景に、私は我が目を疑った。
一人の大柄な兵士が少女の腕を掴み上げ無理やり地面を引きずっていた。
それを阻止しようと、10歳ほどの男の子が泣きながら兵士の足に食いついている。
そのあんまりな光景にも驚いたが、そんな中でも目を引くのは少女の容姿だ。
肌は褐色で白髪――いや、光の加減でそれは確かに銀色にも見える。そしてその瞳はうさぎのように真っ赤だった。
「姉ちゃんを放せよぉー! 何も悪いことなんかしてないだろー!」
そう必死に叫び声を上げる少年もやはり褐色の肌。でも、髪と瞳は私と同じく黒だ。
そして二人の服装はこの国の人達のものとは明らかに違っていた。元は黒だったのだろうその服の色は砂埃のせいですっかり白く汚れてしまっていた。