My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「げほっ……げっ、うえぇ……っ!!」
同時に苦しそうに嘔吐する少年。おそらく胃の辺りを蹴られたのだろう。
(酷い……っ!)
私は溢れそうになる涙を抑えながら必死で彼の丸まった背中を摩っていた。
徐々に視界が開けてきて耳の感覚も戻ってくる。
辺りはシンと静まり返り、皆の視線が私に集中しているのがわかった。
先ほどのお祭り騒ぎは一体どこに行ってしまったのか、少年の咳だけが街に響いている。
だがその沈黙もすぐに破られる。
「娘、何のつもりだ。闇の民を庇い立てするのか?」
兵士の低い声が頭上から降ってくる。
私は答えない。
怒り、悲しみ、恐怖……あまりに色んな感情が交差して、言葉が出てこなかった。
「ほぉ? その肌の色。お前もこの国の者ではないな。こいつらの仲間か?」
「……ちがい、ます」
すでに胃液だけになったものを吐く少年を気遣いながら小さく口を開く。
「闇の民の味方をするなら、お前も同罪だぞ」
言われて、私は初めて兵士の目を強く見上げた。
「この子たちが、何をしたんですか」
搾り出した声は、掠れていた。
「闇の民が昔ここで何をしたのか、お前は知らんのか?」
「昔のことなんかどーでもいい! こんなに小さいのに……この子たちが何をしたんですか!!」
私は怒りに任せて声を荒げた。
喉の奥が酷く熱い。頭が熱に侵されたみたいにガンガンする。
兵士の顔が見る間に赤く染まった。
「何だその口の利き方はぁ!!」
その声とともに彼は掴んでいた少女の髪の毛を振り払うと、そのまま腰の剣に手をかけた。
傍らに倒れこむ少女。
ギラリと光る剣先が振り下ろされるのを見て、私はぎゅっと目を瞑る。
ガキーン!!
そんなような甲高い音が間近に響いた。
恐る恐る目を開けると、目の前に赤毛の剣士がいた。
「セリーン!」