My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
――この歌を作ったのはいつだったろう。
学校の授業だったか、テレビだったか、きっかけは忘れてしまったけれど。
世界の悲しい歴史を知った私は、その時の想いを歌に込めたのだ。
争いや差別の無い、平和な世界を願って。
みんなで一緒に歌いましょう
どこかで泣いている誰かに
どこかで叫んでいる誰かに
この歌を届けましょう
その声は小さくても
きっと大きな光となって届くわ
そうすれば 世界は少し変わるはず
こんなに広い世界が ほら ひとつになっていくよ
セリーンの背中越しに兵士が剣を落とすのが見えた。
その音と同時、それまで呆けたようにこちらを見つめていた人々が蜘蛛の子を散らしたように逃げていく。
剣を下ろしたセリーンの瞳が、私を捉えて大きく見開かれている。
兵士がそのままがっくりと膝を着くのを確認して、私は歌うのを止めた。
振り向いて、抱き合いこちらを見上げている姉弟に言う。
「早く、逃げて」
「あなたは……」
少女が私に何かを言いかける。
だがそこで、ガチャガチャという複数の音に気付く。騒ぎを聞きつけたらしい他の兵士達が足音を響かせながらこちらに走ってくるのが見えた。
少女は弟を支えながらすぐそこの狭い小道に消えていった。
それを見届けると、気が抜けたせいか足がふらついて立っていられなくなった。
その場に崩れ落ちる――寸前、
「こっのアホ! 何やってんだ!!」
横から飛び出したそんな聞き慣れた怒声とともに体がひょいと持ち上げられた。
(……え?)
「風を此処に!!」
途端、鼓膜が破れるようなすさまじい風の音に襲われた。
間近にラグの怒った顔が見えたが、すぐに目を開けていられなくなる。
その強い風に乗るように私たちの体は空高く舞い上がった。