My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
頭からサーッと血が下りてくるような感覚。
確かにここ数日ろくなものを食べていない。今日も朝、硬いパンのような食べ物を少し齧ったきりだ。
でも今はそんなこと言っていられない。気力でなんとかするしかない。
私は頭を振ってもう一度立ち上がろうと足を踏ん張るが、結局力が抜けたようにお尻を着いてしまった。
「なんで……?」
私は呆然と自分の力の入らない足を見つめる。
と、それを見ていたラグが頭を押さえてまた深い溜息を吐いた。
「ったく、体力も十分じゃねぇのに歌うからだ。言ったろ、セイレーンは自分の力を歌にするって」
「そんな! だって前に空を飛んだときは……」
「あん時はお前気絶してただろ」
「あ。……で、でも元の世界じゃこんなこと無かったし……っ」
私は言いながらもう一度立ち上がろうと試みるが、やはりダメだった。
(早く、逃げなくちゃいけないのに!)
気持ちばかり焦って泣きそうになってくる。
「しばらく動けないだろ。昔のオレと一緒だ」
「え?」
「術士は普通万物の力を借りるが、最初は皆うまくいかなくて自分の力ばかり消耗するんだ」
言いながらラグはおもむろに石畳の地面に耳を付けた。
「ちっ、もう近くまで来てやがるな」
「うそっ!」
ラグの顔にも焦りが見え始め、私は青ざめる。
「ったく、しょうがねぇな。……背中に乗れ」
ラグがこちらにその小さな背を向けた。
「でもその体じゃ」
「いいから早くしろ! 見つかったらその場で殺されるぞ!」
その必死な表情と恐ろしい言葉にギクリとして、私は急いでラグの肩に腕をかけた。
しかし完全に負ぶることなど出来るはずもなく、足は地面に着いたままだ。
「うっ……おも……」
「だ、だからムリだって!」
「うるっせぇっ……お前もなるべく足に力、入れてろ!」
言いながらラグはゆっくりと足を進めた。
「くっそ、なんでオレがこんなこと……」
ぶつくさ文句を言いながらも一歩一歩私を引きずって行く。
真っ赤になった彼の顔を見て、急に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「……役立たずで、ごめんね」
「わかってるなら、せめて、大人しくしてて、くれよな……っ」
「うん。……ありがとう」
自分のしたことが間違っていたとは思わないけれど、それによってラグにこうして迷惑をかけているのは事実だ。
私は漸くお礼の言葉を口にして、力の出ない足を精一杯動かした。