My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
ガチャガチャという金属音が両側から近づいてくる。
体を縮こませて息を潜める。
金属音――兵士たちの足音が目の前で止まった。
「いたか!?」
「いや、こっちにはいなかった。この辺りに降りたってのは確かなんだろうな」
まだ若い男たちの声。
「銀のセイレーンか……。あのバッソさんをあんな腑抜けにしちまうんだ。生け捕りなんて無理があるよな」
不安げに言う兵士たち。
バッソというのはおそらくさっきの偉そうな兵士のことだろう。
剣を落とし頭を垂れたあの兵士を思い浮かべながら、私は小さなラグの後ろで強く口を塞いでいた。でないとこの静かな場所では呼吸さえも響いてしまう気がした。
私たちは今建物と建物の隙間、積み上げられた木箱の影に身を隠している。
その木箱のすぐ向こう側で兵士たちの愚痴とも取れる話はまだ続くようだった。
「しかしよりによってこの区画か。相変わらず薄気味悪い場所だ」
「この間もこの辺りで出たって報告があったんだぜ」
「闇の民の亡霊か……。この雰囲気じゃあ、そういう噂が立っても可笑しくないよな」
(亡霊!?)
思わず背後を気にしてしまう。
兵士達の言うとおりこの辺りは昼間だと言うのに薄暗く、特に今私たちの隠れている場所など建物の影で殆ど真っ暗だ。
「そういやさっきバッソさんが銀のセイレーンと間違えたってのは闇の民のガキだったんだろう?」
「そう聞いたな。子供だけでどうやってこの国に入ったんだか……」
「ひょっとしてそのガキ、亡霊だったりしてな」
「や、やめろよ。……それじゃ、次は向こうを捜すか」
遠ざかっていく金属音を聞きながら、ラグと私の溜息がほぼ同時に漏れた。
「亡霊って、まさか本当に出ないよね?」
「……お前は、亡霊と兵士とどっちが怖いんだ」
「え? あ~……どっちも」
「あっそ」