My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
ラグはゆっくり立ち上がると木箱の横から顔を出して相変わらず人気の無い通りを見渡した。
私も立ち上がろうと試みるが、足がふらついてすぐに手をついてしまった。でもさっきのような酷い眩暈はない。
確実に回復していっているのがわかって少しほっとする。
「このままここで日が暮れるのを待つか。一度確認したんだ。しばらくは来ないだろ」
言ってラグは木箱を背に腰を下ろした。
「そうだね、その間にラグも元に戻るだろうし」
「戻れたとしても、結局この国に居る限り同じことの繰り返しだ。……こうなりゃ船を奪うしかねぇか」
「!?」
穏やかじゃないその言葉に思わず声を上げそうになってしまい慌てて小声で続ける。
「そ、そんなことするの!?」
「他にこの国を出るいい方法があるなら言ってみろよ」
言われて口を噤む。
……無論、この世界に飛行機などないだろう。
海を渡るには船しかない。
だが今の私達は港に入ることすら難しい。
ラグが元に戻って術が使えるようになれば、兵士達をどうにか突破して船を奪うことも不可能じゃないだろう。
でも船を奪うということは明らかに犯罪行為で、関係のない人たちまで巻き込むことになってしまう。
もっと何か良い方法がないだろうか……。
必死で頭をめぐらせていたその時、下方からグゥ~という音が響いた。
バっとお腹に手を当てるがもう遅い。完璧にラグに聞かれてしまった。
(最悪だ~!!)
こんな大変な時にお腹が鳴るなんて……。
情けなくて恥ずかしくて私は真っ赤になって顔を膝に埋めた。
ラグの小さな吐息が聞こえて、また呆れられてしまったと更にへこむ。――と、
「ほれ、これ食っとけ。……まだ長いぞ」
差し出されたのはコロンとした小さな丸い包みだった。