My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 1
「な、何?」
「……そういや言ってなかったけどな。“銀のセイレーン”ってのは、伝説には絶世の美女とあるんだ」
「美女!?」
「その美貌と美しい歌声で世界を破滅へと導く、ってな」
私が目をまん丸にしていると、ラグは視線を外し盛大に溜息を吐いた。
「ちょっ、ちょっと! 今のすっごく失礼!! そりゃお世辞にも美女なんて言えないけど」
私が憤慨していると、ラグの目つきがまた変わった。
今度は真剣な、危険を察知した目だ。
私はすぐに口を閉じて身を硬くする。
耳を澄まして聞こえてきたのは、足音だった。
それが私の背後から響いてくるものとわかり、ばっと振り返る。
だがそこにあるのは先ほどよりも濃くなった闇だけで、何も見えない。
(まさか亡霊……!?)
兵士達の話を思い出してぞっとする。
走るわけでなく、一歩一歩ゆっくりとこちらに近づいてくる足音。兵士達のものではない。
「ちっ、ここの住人か?」
ラグは立ち上がり私を見下ろした。
「もう一人で平気だな」
「う、うん。……多分」
私は言いながらすぐに立ち上がった。
眩暈はない。足もふらつかない。
本当に平気なようで私はほっと胸を撫で下ろした。
ラグもそれを見て少しだけ安堵したような表情を見せた。
「よし、行くぞ」
私は頷き、ラグに続いて路地に出た。
相変わらず人気は無い。路地だけでなく、建物のどの窓も向こうは真っ暗で人の気配がまるで感じられなかった。
あの賑やかな大通りに比べるとここだけがゴーストタウンのようだ。
「どうするの?」
「もうすぐ日が沈む。それまでまたどこかに――」
と、その時だ。
「いたぞー! あの娘だ!!」
その大声に驚き振り向くと、路地の向こうで数人の男達がこちらを指差していた。