ヤマタノオロチ
前 三節
「なんのようだ?」
彼らがスサノオの前に現れたのは、ある夏の暑い日のことだった。
珍しく、オロチが村に下りており、自分が一人で留守番をしている時間。
訪れたのは、海を渡った先にあるはずのはるか西の大陸の国『魏』でなければ手に入らないようなシルクで出来た、見るからに高価な着物をまとった大人たち。
周りに金の装飾も施しており、そのような格好では、こんな林ではさぞ歩きにくいであろうというコトは、言うまでもなく分かった。
「お探ししておりました。スサノオウ。」
その名で呼ぶな。
今の俺は、『スサノオウ』ではない。一介の釣り人『スサノオ』だ。
「人違いではないのか?俺はそんな名前ではない。」
悪いが、王家に戻る気はない。
姉のいる王家に戻り、何をしろと言うのか?
「いえいえ・・・このワノスケ、王子の顔を見間違えるはずありません。このように凛々しく育っておられ・・・さぞ、黄泉の国に旅たたれた、ご両親も姉もお喜びでしょう?」
・・・・・・・・ん?
「今、なんと?」
黄泉の国に旅たたれた両親と・・・・・・『姉』・・・・・・・?
「はは、これは、言葉が前後してしまい申し訳ありません。スサノオウ。アナタ様の姉上である天照王妃が、お亡くなりになられました。」
うやうやしく頭を下げるワノスケ。
シルクに金の装飾を施し、髪の毛も綺麗に整えた高官な男が、麻の服に、ボサボサ頭の男に頭を下げる光景は、はたから見たら、なんと滑稽なことか・・・。
いや、今は、そんなコトを考えている場合ではないな。