ヤマタノオロチ
前 七節
「変わった蛇がいたものだな・・・。」
ある釣りの帰り道。
オロチの前に現れたのは、八つの頭を持つ蛇だった。
蛇は突然変異で、時々二又、三又の頭に分かれるものが生まれることもあるが、八つとは・・・。
ここまで来ると、軽く化け物に近い姿だ。
「そのような姿では、生きていくのも大変だろう?」
言うと、オロチは蛇に釣ってきた魚を三つ投げつける。
すぐに魚に食いつく八又の蛇。
「ふむ・・・さすがは、頭が八つあろうと、身体は一つか・・・うまく協力し合っているな。」
彼らはケンカすることなく、仲良く魚を分け合って口にする。
「鬼はいないが、八又の蛇はいるか・・・。スサノオに見せたら、さぞ驚くだろうな・・・。」
笑いながらもオロチの元には既に誰もいない。
元々、誰にもかかわることのないと思っていた一人暮らし。
それが元に戻っただけだというのに・・・
「7年か・・・短いようで長い月日だったな・・・。」
言うと、オロチは蛇の頭の根元をつかむ。
暴れる蛇たち。
とはいえ、この種類は毒をもってないことは、見るからに分かる。
蛇を恐れるようでは、こんな林で住めるはずもない。
朝起きたら、真横で蛇が寝ているなんてコトだってざらにあるのだ。
「まぁ、酒ぐらい付き合え八又の蛇・・・ここしばらく一人酒だったのだ。」
言うとオロチは蛇と共に家に帰っていった。