ヤマタノオロチ


「あ、今どんな根拠だ?・・・と思ったでしょ?」


 読心術?


「誰だって思う。それより、釣りの邪魔をしにきたのなら、立ち去れ・・・俺はイワナと鮭を釣るので、忙しい。」


 言うと、釣竿に何かかが引っかかったので、一気に引き上げる。


 ・・・・・・・・案の定、鮎だった・・・。


「ちっ!」


 思わず、舌打ちも出てしまう。


 だが、それを見てクスクスと笑う女。


「何が、おかしい?」


 思わず、イラつきが表に出てしまった。


「だって、鮎を釣って舌打ちするなんて・・・王様が、しかも那須の国をたった三日で落としたほどの王が、イワナが釣れないぐらいで、舌打ちなんて・・・。」


 言うと、女はよほどおかしかったのか、今度は腹を抱えて笑い出した。


 それほどに王が魚を釣るのが珍しいか・・・。


 まったく・・・。


「戦に勝つことより、イワナを釣るほうが、何倍も難しい・・・。」


 それは、心から出た言葉。


 それに、戦に勝つことより、一匹の魚を捕まえるほうが、どれほど有意義なことだろうか・・・。


「そうだね・・・戦に勝ったところで悲しむものはいても、喜ぶ人はいない。でも、魚を釣れば、誰かのおなかは膨らむ・・・それに、誰かが笑顔になるしね。」


 ・・・人を殺したところで悲しむものはいるかもしれないが、誰も喜ばない・・・。


 ・・・でも・・・魚なら・・・・。

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