ヤマタノオロチ
前 二節
オロチとスサノオの間には五歳の差がある。
であったのは、7年前。
スサノオ8歳。オロチ13歳の頃であった。
当時、13歳といえば十分に成人している年齢ではある。
しかし、それでもオロチは変わっていた。
林の中に一人で住み、魚を釣りながら、暮らしていた。
村には滅多に下りることはなく、たまに野菜や酒を買いに行くときぐらいだった。
親が死に、姉に捨てられたスサノオは、行くあてもなく林の中をさまよっていたところをオロチに拾われた。
気まぐれなのか、同情からか分からない。
少なくとも、自分の素性を知っていてのことではないことは、自分の扱いを見て思った。
須賀の国の王子、須賀之王(スサノオウ)。
それも捨てられる8歳までの話。
今は、この世捨て人オロチと暮らす、ただの釣り人『スサノオ』である。
「なぁ、今日は剣の稽古はしないのか?」
帰り際、スサノオは気になって、オロチに尋ねる。
「つけて、どうする?国に取り入るのか?」
林のそばにある村からさらに東に進むと、大きな国がある。
自分が捨てた『須賀の国』である。
数千人とも数万人とも言える、巨大な国。
傍のナの村も、須賀に属する。
確かに、そんな巨大な国に取り入れられれば、今よりもっと裕福な生活が待っているだろう。
だが・・・誰が悲しくて、自分を捨てた姉に取り入りたいと思うのだろうか?
「違うよ!強くなりたいんだよ!」
そう、自分を捨てた姉を撃つために、せめて、須賀に負けないぐらいに強い国を作るために、剣の腕は必要だ。