偽婚
【episode 0】
あぁ、もう、ほんと最悪。
熱で意識がもうろうとする中、近所の自動販売機で飲みものを買うために、私はふらふらとした足取りで、歩を進める。
頭は痛いし、気持ち悪いしで、気を抜けばすぐに倒れてしまいそうだ。
それでもどうにか自動販売機までたどり着き、震える手で財布から小銭を取り出した時。
「……あ」
手から滑り落ちたそれは、無情にも地面を転がっていく。
「嘘でしょ……」
たかが100円。
されど100円。
無意識のうちに、私は鈍色に輝く硬貨を追いかけていた。
転がった100円玉はしばらくの後に止まり、ほっと安堵して拾い上げようとした私を、車のヘッドライトが照らしていた。
気付けば私は車道に出ていて、悲鳴にも似たブレーキ音が響いている。
あ、やばい、死ぬ。
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