偽婚
古い画像データを見せられた。

そこに映るのは、茶髪で不機嫌そうな、若い神藤さん。


見るからに大学生といった風貌に、ちょっと笑う。



「茶髪だったんだぁ」

「顔はいいから密かにモテてたけど、いっつも眉間にしわ寄せてて、無口で、取っ付きにくい感じでさぁ。だから実際に声掛ける子は少なかったんだけど」

「あぁ、そんな感じ」

「でも、あの態度でしょ? しかも機嫌が悪くなると口調が荒くなるから、せっかく、声掛けてくれた女の子に『うぜぇんだよ』とか言って、泣かせたりして。評判悪かったなぁ」

「うわぁ、最悪」


おもしろいことを知った。

これは今後のネタになるなと、私はひとりで爆笑だった。


美嘉さんは、さらに携帯を操作する。



「で、これが優斗」


今度、映し出されたのは、今の神藤さんと瓜ふたつの人だった。

眼鏡をかけてはいるが、双子かと思うほどそっくりだ。



「ね? おもしろいでしょ」


美嘉さんは苦笑い。



「私は、昔の茶髪の柾斗を見慣れてたから、今の、黒髪でスーツ着てる姿がすごく違和感なんだけどね。あんな顔が目の前にいたら、優斗のこと忘れようとしたってできないよね」

「ほんとですね」


最愛の亡き恋人の、同じ顔を持つ弟。

美嘉さんが神藤さんを愛せないのも、無理はないと思う。


神藤さんが、お兄さんの影と戦う理由も、これで何となく、わかった気がした。
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