偽婚
結婚が破談になったことは、神藤さんのためであり、美嘉さんのためでもあった。

だったら少しは私がいる意味もあったということだ。


美嘉さんは「うーん」と伸びをした。



「優斗が生きてて、あのまま私たちが結婚してたら、杏奈ちゃんは私の、義理の妹になってたってことよね。それはそれで楽しかったんだろうなぁ」


でも本当は、お兄さんが生きていたら、きっと私と神藤さんは、出会わなかった。

人の縁とは、つくづく不思議なものだと思う。



「美嘉さん。私はあなたの義理の妹にはなれなかったけど、だったらこれからは友達になりましょうよ。それはそれで、楽しいはずです」


私の言葉に、美嘉さんはひどく驚いた顔をして、でも次には笑った。



「あなたは柾斗が言うように、本当におもしろい子ね。今わかったわ。私が男でもあなたと結婚したいと思ったかも」

「えー? やめてくださいよ。どこがおもしろいんですか」


口元を引き攣らせる私をよそに、美嘉さんは笑い転げていた。

何だかなぁ、と、私は思ったのだけれど。



「ありがとう。すごく嬉しい」


美嘉さんは、笑いながら、泣いていた。

その涙の理由は私にはわからないけれど、でもどんな表情をしていても美しい人だと思った。



「頑張ってください。応援してます」

「うん。一時帰国する時には、連絡するわ。友達として、またランチに付き合ってちょうだいね」

「もちろんです」


そして私たちは、二度目の乾杯をした。

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