偽婚
相手を想う気持ちに、勝ちも負けもないと、私は思う。

私も、神藤さんも、美嘉さんが大好きなのだ。



「ねぇ、神藤さん。美嘉さん、来月からカナダに行くんだって。留学するんだって」

「知ってるよ。電話した時に聞いた」

「留学したら、会いたい時に会えなくなるよ? 寂しくないの?」

「別に。元々、兄が死んでからは、年に一度、会うか会わないかくらいだったから、今更、あいつがどこで何をしてようと、そう変わらないだろ」

「でも、美嘉さん、もしかしたらもう戻ってこないかもよ? その前に、自分の気持ち、ちゃんと伝えなくていいの?」

「はぁ?」


私の言葉に、神藤さんは顔を歪めて見せた。



「あいつは今も兄が好きなんだ。大体、旅立つ前にそんなの伝えたって、困らせるだけだろ。俺の自己満足を押し付けてどうなる」

「でも、それじゃあ、神藤さんの気持ちは」

「もういいんだよ。言ったろ? 俺は、兄と美嘉が付き合い始めたと知った時点で諦めてたんだ。昔のことなんだよ」

「でも!」

「しつこい」


それでも食い下がる私を、神藤さんは遮った。



「あいつが前を向いて生きるための選択をしたなら、俺はそれを祝福したい。応援してやりたいんだよ」


神藤さんの決意は固かった。

きっと、一生、美嘉さんに想いを伝えることはないのだと思う。


だけど、美嘉さんを応援したいという気持ちは私も同じで、神藤さんの気持ちも痛いくらいにわかるから、だからそれ以上は何も言えなかった。
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