偽婚
帰りの車内。
思い出したようにまた涙が込み上げてきた私を横目に、神藤さんは呆れ切った顔だった。
「お前なぁ、美嘉は戦争に行くわけじゃないんだぞ」
「でも、寂しいじゃん」
「江戸時代ならともなく、この時代、通信手段ならいくらでもあるだろ。別に今生の別れってわけでもないのに」
「でもでも、寂しいもんは寂しいんだよ」
顔を背ける私。
神藤さんは、大きなため息を吐いた。
「わかったよ。わかったから。甘いもんでも食いに連れてってやるから、泣くな。これじゃあ、俺が泣かせてるみたいだ」
「……甘いもの?」
思わず反応してしまう私。
おかげで涙は一瞬にして引いた。
「どこ?」
「どこでもいいけど。つーか、お前、さっきまで美嘉のことで泣いてたくせに」
「甘いもの! 食べたい!」
「わーかったよ。もういいから大人しく座っとけ」
まだ午前中だったし、別れの寂しさもあったけれど、でもそれはそれだ。
いきなりの喜びに、私は何を食べようかとわくわくする。
休みの日に神藤さんと出掛けるのも久しぶりのことだったので、余計に嬉しくて、それが顔に出ないようにするのに必死だった。