偽婚
「でもさ、そんなにすごいお父さんが、神藤さんを副社長に認めてくれたってことでしょ? だったら胸張っていいと思うけどなぁ」


私の言葉に、神藤さんは少し驚いた顔をしたあとで、「あははっ」と声を立てて笑った。



「お前、おもしろいやつだな」

「えー? 今、どこに笑うところがあった?」

「いや、色々と悩んでたから気晴らしにきただけだったけど、おかげでちょっと元気になったよ」


何に笑われたのかは、やっぱりわからない。

だけど、ここにきて神藤さんが元気になったなら、それでいいかなと思い直す。


これであの日の恩を返せた気がして、私も安堵する気持ちもあったのだと思う。



「飲もうよ。ね?」


私は神藤さんのグラスにシャンパンを注ぎ足し、強引に二度目の乾杯をした。



どんな環境で生きていても、必ず人は、悩みを抱えているものだ。

それを救うことはできなくとも、寄り添うことなら私にもできるから。


お金のために始めたキャバという仕事だけれど、今は、こんな私でも誰かの何かになれるならと思えるようになった。

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