偽婚
困惑
あの日以来、私たちは、本当にすれ違いの生活だった。
神藤さんは、大抵、私が寝る頃に帰ってくるし、少し早く帰れた日でも、すぐに部屋にこもって仕事をする。
顔を合わせるのは、朝の数十分だけだが、それでもお互い、特に会話らしい会話はしない。
晩ご飯も外で済ませると言われた時には、さすがにショックだったが、しかし私も、まともに顔を突き合わせて笑っていられる自信はなかったので、今は逆にそれがありがたかった。
神藤さんがどうして私にキスをしたのかは、まだ謎なまま。
もしかしたら、神藤さんは仕事の忙しさを理由に、意図的に私を避けているのかもしれないけれど、でも私も正直、神藤さんを避けていた。
しかし、キスした方が避けるって何?
やっぱりあれは、偶然、顔が近付き、唇と唇が当たってしまっただけの事故で、神藤さんも恥ずかしくなってるとか?
いや、そんなバカな。
どんなに考えたって、答えは出ない。
私は、あの数分前までは、完全に、神藤さんへの恋心を封印するつもりでいた。
なのに、キスされた挙句、神藤さんはあれから一度も私と目を合わせようとはしないのだから。
意味がわからなすぎて、困惑と怒りが交互に襲ってくるループから抜け出せないまま。