偽婚


そんな中で、梨乃に飲みに誘われた。

一応、神藤さんには連絡しておいたけど、既読スルーされたので、腹立たしい。



「はい、二日早いけど、誕生日プレゼントー」


梨乃の働いているショップの、新作の夏服が数点。



「今の杏奈のスタイルに合わせて、綺麗目を選んでるよ」

「ありがとー。さすがはカリスマショップ店員だぁ」

「いや、それ、死語だから」

「梨乃の誕生日には、お返しに奮発しちゃう」

「そんなのいいから、マジで誰かいい男紹介してよね」


ふたりで笑う。

神藤さんへの腹立たしさと、梨乃と会えた嬉しさで、私のお酒は進んでいた。


今だけは、すべて忘れて楽しもうと思っていたのに、なのに梨乃はそんな私の気も知らず、いきなり話題の中心にそれを持ってきた。



「で? 神藤さんとはどう?」

「……別に普通だけど」


キスされたとは、この状況ではさすがに言えなかった。

私は口元を引き攣らせながら、どうにか答えたのだけれど。



「『美嘉』のことは?」

「あ、うん。あれは、ただの友達だったみたい」


梨乃には、神藤さんのお兄さんが亡くなったことを話していなかった。

それに、神藤さんは美嘉さん本人に想いを伝えない方を選んだのだし、だから私の口から他人に言うべきではないと思うから。


しかし私の返答に、肩をすくめて見せる梨乃。
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