偽婚
「友達?」


その声に、梨乃ははっとする。

今まで必死過ぎて、高峰さんの存在に気づいていなかったという顔だ。



「俺、邪魔なら帰った方が」

「誰!?」


振り返った梨乃は、かぶせ気味に聞いた。



「神藤さんじゃないじゃん! 誰よ、この人!」

「えっと、この人は、神藤さんの友達の」


しかし、私が説明するより早く、目にも止まらぬ速さでスーツの内ポケットから名刺を取り出した高峰さんは、



「神藤の大学の同期の高峰です」


と、訂正した。


別に『友達』でもいいと思うのだが、高峰さんは今までに見たことのないような営業スマイルで、梨乃に名刺を押し付ける。

嫌な予感がした。



「弁護士をやっています。今回は杏奈さんの事故処理で伺いましたが、梨乃さんももし何かあればいつでも」

「うっそ! 弁護士!? しかもかっこいいし!」


思いっきり営業してる高峰さんと、そして『弁護士』という単語に目の色を変える梨乃。


梨乃の涙はすっかり引いていた。

先ほどまでの熱い友情はどこに行ってしまったのかと聞きたい。



「私ぃ、カレシいなくて困ってるんですけどぉ、そういうのも相談に乗ってくれるんですかぁ?」

「美人の愚痴なら、無報酬でいくらでも」


何なんだろう、こいつらは。

私は急にひどい眩暈を覚え、もう邪魔だからさっさと帰ってくれよという気持ちになる。
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