偽婚
「あったかいな」

「うん。生きてるもん」


願わくば、神藤さんの過去が、少しでも救われますように。



「ちゃんとご飯食べて、ちゃんと寝るんだよ? 私が無事でも神藤さんに何かあったら、そんなの誰も嬉しくないよ」


いつか、神藤さんが言っていた言葉。

それをそのまま返してやると、神藤さんは力ない顔ながら、やっと少しだけ笑ってくれた。



「お前が退院して、俺の仕事も落ち着いたら、また旅行にでも行かないか? 今度は京都でもどこでも、好きなところに連れてってやるよ」

「地酒がおいしいところ?」

「バカ。日本酒はもう二度と飲ませない」


言い合って、ふたりで笑う。

こんな他愛ない時間は、いつぶりだろう。


互いの手のぬくもりが、ひどく愛おしく思える。



「ありがとね、神藤さん」

「ん?」


もっとたくさん、話したいことがあったのに。

なのに、睡魔に負けて、目を閉じる。


神藤さんはそんな私の頭を撫でながら、「ゆっくり寝てろ」と言ってくれた。

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