偽婚
幸福
ゆっくり過ごしている間に、ずいぶんとあたたかい日が増えたように思う。
私が退院してから、2週間。
「で、無事に両想いだとわかって、今はラブラブ生活してる、と」
追求され、白状した私に、梨乃はにやつきながら話をまとめる。
何だか気恥ずかしいが、さんざん相談していた手前、隠しておくべきではないと思ったのだけれど。
「別にラブラブってことは」
「でも、一緒に暮らしてるんだし、ヤリまくりでしょ?」
「いや、だから、まぁ、一応は」
しどろもどろになる私に、梨乃は笑いながら、「おめでとう」と言った。
何だかなぁ、という感じだ。
「とにかく、そういうわけだから、今日はお礼も兼ねて、何でも頼んで。全部奢るから」
勢いよくメニューを差し出した私。
しかし、梨乃は腕時計を一瞥し、「ごめん」と言った。
「嬉しいんだけど、実はこのあと、予定あるんだよね」
「えー? 久しぶりに会えたのにぃ」
「ほんとにごめん」
言いながら、梨乃はすぐに荷物を持って席を立つ。
不貞腐れた私は、意地悪い質問をぶつけた。
「友達? それとも、男だったり?」
「私のことはいいから、あんたは神藤さんのことだけ考えてなよ」
舌を出して見せた梨乃の言葉に、肩をすくめることしかできない私。
そのまま手を振り、私たちはその場で別れた。