偽婚
決意
帰宅してから、もらった名刺を頼りに、神藤さんの会社をインターネットで調べてみたら、そこにはカフェチェーンを中心にした飲食事業を展開していると書かれていた。
近県各地に30店舗ほどを出店していて、その中に私がよく行く駅前のカフェも含まれていると知った時には驚いた。
神藤さんと、偽装結婚するかどうか。
考えれば考えるほど、どうすればいいのかわからなくなる。
何だかんだで私はキャバという仕事が好きだし、指名客だってひとりひとりを大切にしてきたつもりだ。
長い時間をかけて信頼関係を築いてきたのに、簡単にそれを捨ててもいいのか。
いや、でも、人は結局、お金がないと生きてはいけないし。
もし自分が病気でもして働けなくなったらと思うとすごく不安だから、生活費も必要なく、お金がもらえるなら、こんなにおいしい話はないじゃないかとも思う。
しかし、副社長の妻としての振る舞いってどんな風なんだろう。
未婚だった上に男の尻を追いかけてばかりだった私の母の姿は何の参考にもならないし、下手をすると神藤さんの株を下げることになるんじゃないかと思うと、それはさすがにやばいだろうし。
「あぁ、もう、頭痛くなってきたんだけど」
気付けばひとりっきりの部屋で、大声を上げてしまっていた。
まさか私がこんなことで悩むなんて。
だけど、内容が内容だけに、誰にも相談はできなくて、余計に悩みはループするばかり。