偽婚
意志
あのあと、泣きながら電話した私を、梨乃は慌てて迎えにきてくれた。
泣き腫らしながらも、少し落ち着き、たどたどしくだが事情を説明する私。
梨乃は大きなため息を吐きながら、頭を抱えた。
「話はわかったけど。でも、だからって、それで神藤さんと別れて、ひとりで子供を育てるなんて」
「………」
「あんた、片親でさんざん苦労してきたじゃん。子供なんて絶対に産まないって言ってたじゃん」
梨乃はやはり、私の決意に反対する。
しかし私だって、悩み抜いた末に決めたのだ。
「お願い、梨乃。少しの間でいいの。泊めて。なるべく早く、住むとこ見つけて出て行くから」
「いや、そんなこと言われても」
「頼むから。老後はふたり仲よく暮らそうって約束したじゃん」
「ちょっと落ち着いてよ、杏奈。今は老後じゃないし、しかもふたりじゃないじゃん。子供ができたなら話は別だよ」
話にならないと思ったのか、梨乃は携帯を取り出し、すぐにどこかに電話を掛け始めた。
「もしもし、高峰さん? ちょっと今からうちにきてほしいんだけど」
高峰さん?
「杏奈が大変なの。事情はあとで話すから、とにかく今すぐきて」
早口に言って、梨乃は電話を切る。
が、まさか高峰さんを呼ばれるとは思わなかった。
もしも話を聞いた高峰さんが、神藤さんにすべて話してしまったら。