偽婚
高峰さんの言葉は辛辣で、でも正論だった。

私は言葉が出なくなる。



「別にシングルマザーが悪いなんて言ってないよ。けど、杏奈ちゃんには、親も親戚もいないんだろ? だったら、杏奈ちゃんが死んだら、その子はどうなる? 少しはそういうことも考えろって言ってんだよ」


ため息を吐く、高峰さん。



「杏奈ちゃんが子供を堕ろしたくない気持ちもわかる。でも、だったらきちんと神藤と話をするべきだ。結婚するかどうかは別にしても、養育費はもらうべきだよ」

「けど、隠し子がいたら、神藤さんの将来に傷が」

「あのな、子供はひとりで作れるもんじゃないだろ? 神藤にも責任があることなんだよ。もう、立場がどうのなんて言ってる場合じゃない。それに、子供にだって、養育費をもらう権利があるんだから。それでもひとりで育てたいなんてのは、杏奈ちゃんのエゴだよ」


ちゃんと悩んで決めたことだったはずなのに、なのに決意が揺らぎそうになる。

悔しさと悲しさと不安で、私は再び涙が溢れてしまう。


たまらず梨乃が口を挟んだ。



「高峰さん!」


梨乃の制する声に、高峰さんは小さく舌打ちし、「ちょっと煙草吸ってくる」と言って、部屋を出た。

梨乃も涙ぐむ。



「私だって、そりゃあ、杏奈が決めたことなら応援したいよ。どんなことでも助けたいよ。けど、今回だけは、どうしたらいいのかわからない。高峰さんの気持ちもわかるから」


そう言って、梨乃は話してくれた。

高峰さんの過去を。

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