偽婚
高峰さんは、医者一家の三男だそうだ。
しかし高峰さんだけは、父が看護師の女と不倫してできた子らしい。
産みの母は、高峰さんが10歳の時に、病気で亡くなった。
親戚は誰も高峰さんを育てることはできず、施設に入ることになった直前で、父に引き取られ、高峰家の子となった。
しかし、所詮は妾の子。
母も、兄ふたりも、ことあるごとに高峰さんに辛く当たり、罵倒した。
「その頃のことはほとんど話してくれない。それってきっと、高峰さんは、思い出したくないほどのものを、今も抱えているからだと思うの」
このまま医者になれば、一生この生活が続く。
そう思った高峰さんは、弁護士になることを決め、司法試験合格を機に、家族との縁を切った。
「高峰さんは、今も、亡くなったお母さんを恨んでる。自分ひとり残して死ぬなら、最初から産まなきゃよかったんだよって」
いつもふざけたことしか言わない、高峰さんが。
弁護士らしくない言動ばかりの、あの高峰さんが。