偽婚
それから2日間、悩み抜いた。
だけど、答えは出ないまま、約束の3日目を迎えてしまった。
その日は店休日で、昼に起きて買いものに出かけ、戻ってみると、何やらアパートの前が騒がしかった。
「鑓水さん」
呼ばれた声に振り向くと、私の上の部屋の山本さんが。
「僕の隣に住んでる徳井くん、ついに住むところが決まったから引っ越しだって。レンタカーで軽トラ借りて、友達に手伝ってもらって安く済ませたみたいだよ」
「ほぇー」
思わず間抜けな声を出してしまう私。
確かに引っ越し業者に頼まなければ安上がりなのだろうけど、私は免許もなければ力持ちの友人もいない。
羨ましいなと思いながら、ふたりで作業の推移を見守る。
「あ! ってことは、もしかして、このアパートで残ってるのって、あとは私と山本さんだけだったり?」
「そうだけど、僕も今週末、引っ越す予定だから」
「えっ」
じゃあ、来週には、私はここでひとりになるってこと?
やばい。
これは本格的にやばい。
「鑓水さんは? 引っ越しの日、決まったの?」
「え? あ、えっと、私も来週には」
慌てて誤魔化し、私は「それじゃあ」とだけ言葉を残して、言い逃げるように部屋に帰った。
思わぬことに背中を押された形だが、そのまま、ほとんど勢いで、私は神藤さんに電話した。