偽婚
母
昨晩、泣きまくったのもあって、目が覚めると、妙にすっきりした気分だった。
伸びをしてから、無意識のうちにお腹を触っている自分がいた。
強くならなきゃいけないと思う。
夜になり、梨乃と高峰さんが訪ねてきた。
「私、やっぱり子供は堕ろさない。誰に反対されたって、産むよ」
それを伝えると、ふたりは顔を見合わせたあとで、同時にふっと笑った。
「だと思った。杏奈って一度決めたことは曲げない性格だしね」
「昨日、あれからふたりで話してたんだ。あの様子じゃあ、産むって言うだろうなって」
どうせ理解はされないだろうと思っていたのに。
なのに、梨乃はともかく、高峰さんまで素直に納得してくれたことに、驚いた。
「正直まだ、完全に賛成ってわけじゃないけど、最後は梨乃に説得されたよ」
「え?」
「『高峰さんのお母さんも、もしかしたら杏奈みたいな決意で高峰さんを産んだのかもしれないよ』、『なのに死んじゃって、きっとお母さんが一番辛かったと思う』、『恨んだら可哀想だよ』って」
「梨乃……」
「昨日の杏奈ちゃんを見てて、確かにそうなのかなって思ったよ。だから、まぁ、杏奈ちゃんには俺の母親みたいになってほしくないから、できるだけのことはしようかなって」