偽婚
「俺さ、誰かと暮らすなんて絶対に無理だと思ってたけど、今なら神藤が楽しそうにしてた理由もわかるよ」


わざとなのか、本気なのか。

恥ずかしげもなく高峰さんは言う。


涙目になった梨乃を見て、私は声を立てて笑った。



「まぁ、一応、知り合いの不動産屋には連絡して、物件探してもらっとくから」


不動産屋まで知り合いとは。

ますます頼りになる弁護士だなと思う。



「ありがとう。よろしくね」


梨乃は未だ、横で真っ赤になったまま。

肩をすくめ、私はその背を叩いた。



「ほら、梨乃。早く行きなよ」

「えっ、あっ」


珍しく挙動不審な梨乃をまた笑いながら、私は意地悪いことを耳打ちした。



「よかったねぇ、愛されてて。でもちゃんと避妊はしなきゃダメだよ?」

「うっさいなぁ。それ、杏奈にだけは言われたくないし」


不貞腐れながらも、高峰さんと共に歩き出した梨乃に、大きく手を振る。


前途は多難。

だけど、一歩ずつでも、しっかりと進もうと思った。

< 195 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop