偽婚
3日後、仕事が休みの梨乃と一緒に、梨乃の実家へと向かう。
商店街の中にある、お弁当屋。
子供の頃は、よく店の前で、ふたりで遊んでいたなと、懐かしい記憶が蘇ってきた。
「おかえり、ふたり共。久しぶりだねぇ」
出迎えてくれた梨乃の母は、昔と変わらない笑顔を向けてくれる。
「ご無沙汰してます、おばさん」
「やだよ、杏奈ちゃん。そんな堅苦しい挨拶はやめてよ。昔と同じでいいよ」
「うん」
梨乃とふたり、部屋に入る。
使い古して傷だらけになってしまった丸テーブルも、焼けて色褪せた畳も、何も変わらずそこにある。
「ほら、梨乃も、そんなとこに突っ立ってないで、自分の家なんだから座りなさい」
「あ、……うん」
梨乃がこの家に帰ってくるのは、家出して以来らしい。
だから私よりずっと緊張した面持ちだったが、でも梨乃の母はそんなの気にしない。
気まずそうに、しかし嬉しそうに笑った梨乃を見て、何だか私も安心した。
梨乃の母はお茶を出しながら言った。
「大丈夫なのかい? 杏奈ちゃん」
いきなり本題を切り出される。
本当にひとりで育てていくのか、という意味だろう。
「大丈夫だよ。梨乃とか、みんなも助けてくれるし」