偽婚
私の言葉に、梨乃の母は、梨乃と同じ顔でうなづく。



「そうかい。まぁ、うちはパートさん全員、子育て経験者だし、私も孫育ててる最中だから、困ったことがあったら何でも言いなよ」

「うん」

「それに、お給料はあんまり出せないけど、まかないは食べ放題だから、食うには困らないはずだよ」


その時、ドタドタと階段を降りてくる足音が聞こえたかと思うと、バンッと居間のドアが勢いよく開いた。

驚いて顔を向ける、私たち。



「梨乃ちゃん!」


金髪で、小脇に幼子を抱えた、元ヤン風の女性が。

女性は梨乃を見るなり、顔をぐちゃぐちゃにして泣き始めた。



「ごめんねぇ、私の所為で。私がこの家にきたばっかりに、梨乃ちゃんのこと追い出すみたいになっちゃったもんねぇ。ほんとにごめんねぇ」


どうやら梨乃の兄嫁らしい。

梨乃はまた、気まずそうに笑った。



「もういいよ、ユキちゃん。私、今、楽しいし」

「梨乃ちゃん……」

「それより、ふたり目ができたんでしょ? 体、大事にしてね」


梨乃の言葉に、わんわんと泣く、兄嫁さん。

どうやら見た目に反して、ひどく涙もろいらしい。



「うるさい家だけど、同じ妊婦さんもいるから心強いでしょ? 杏奈ちゃん」


梨乃の母はまた笑った。
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