偽婚
「しかし、杏奈ちゃんまで子供を産む年になったなんてねぇ。時の流れは速いよ」

「おばさん、まだまだ若いじゃん」

「そりゃあ、だって、梨乃が結婚するまでは、安心してられないからねぇ」


嫌味に、途端に梨乃はむすっとする。



「心配しなくても、私だってカレシくらいいるもん」

「カレシって、結婚は決まってるのかい?」

「け、結婚って……」

「大体、相手はちゃんとした人なのかい? あんたはバカだから悪い男に騙されないか、母さんいつも心配で」

「ちゃんとしてるもん! 弁護士だもん!」


売り言葉に買い言葉で言った梨乃は、はっとする。

が、時すでに遅し。



「弁護士ぃ!?」


梨乃の母と、兄嫁は、声を揃えて驚いた。



「あんたそれ、やっぱり騙されてるんじゃ」

「大丈夫だよ、おばさん。高峰さんは、ちゃんと信用できる人だよ」


慌てて仲裁する私。

少しの間を置き、梨乃の母は、大きなため息を吐いた。



「それじゃあ、今度、その人を連れてきなさい」

「えっ」

「あんたももういい大人なんだから、カレシ連れて、たまにはうちに帰ってきなさい」


やっぱり梨乃の母は、懐が深いなと思う。

梨乃は、してやられたなという顔で、「わかったよ」とだけ返した。

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