偽婚
「先日のお話、お受けすることに決めました」
電話して、開口一番にそう告げた私に、神藤さんは安堵したような声で「ありがとう」と返してきた。
結局、私はお金に転んだのだ。
でも逆に言えば、これはチャンスではないかとも思う。
夜になり、私は神藤さんのマンションを訪ねた。
「おー、いらっしゃい」
少し緊張していた私を、出会った時同様、ラフな恰好で迎えてくれる、神藤さん。
何とも言えない顔を向けながらも、部屋に入る。
あの日はきちんと見ていなかったが、リビングは、まるでモデルルームみたいに綺麗に整えられていた。
「こっちが俺の部屋。で、隣は今は物置にしてるけど、お前の部屋にする。家の中にあるものは、基本的には好きに使ってくれて構わない」
私に与えられたのは、6畳間。
じゅうぶんだと思った。
「けどさ、私のお風呂とか覗かないでよ?」
「覗くかよ。お前の裸なんか興味ない」
「えー? もしかして神藤さんってゲイ? あ、だから目くらましで私との偽装結婚を思い付いたとか?」
「バカか。お前に手出すほど困ってないって意味だよ」
言い合いながらも、ひと通り、家の中の説明をしてもらってから、席につく私たち。