偽婚
「それで、こっちが本題」


書類には、たくさんの間取り図が。



「知り合いの不動産屋に、いくつかいい物件、ピックアップしてもらっといたから」

「わー、仕事早いねー」

「気になるとこあったら、ここに電話して。で、内見するなら、梨乃も誘ってやってよ。寝ても覚めても杏奈ちゃんの心配してるから」


ありがたい限りだ。

私は間取り図に目をやりながら、あれこれと思案する。



「やっぱり一番は、安いところだよね。でもそうなると、駅から遠いんだよね。仕方ないけどさ。あ、ここだと公園が近いんだね。大事だよね、そういうの。ねぇ、ちなみに高峰さんなら、この中だと」

「杏奈ちゃん」


言葉を遮り、名前を呼ばれる。

顔を上げたら、高峰さんは真面目な顔をしていた。



「何? どうしたの?」

「聞かないのか? 神藤のこと」

「え……」


神藤さんのこと。


途端に鼓動が速くのがわかる。

だけど、私は必死でそれを押し殺したのに。



「神藤が今どうしてるか、気にならないのか?」


もう一度、高峰さんはそう言った。


気にならないわけがない。

けど、でも。



「理由はどうあれ、私からこっぴどく振ったんだよ? それなのに、都合のいいこと言えないよ」
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