偽婚
仕事は、品出しとレジ打ち、接客がほとんどなので、簡単だった。
だけど、つわりがしんどくて、疲れは過去のどの仕事よりも多かった。
「杏奈ちゃん、ちょっと痩せた?」
私の顔色の悪さに、ユキさんが声を掛けてくる。
「そうなんですよ。病院でも怒られちゃって」
「あんまり食べてないんじゃないの? ダメだよ、そういうの。吐いてもいいから食べないと、栄養まわらなくなっちゃうよ」
「ですよねぇ」
「でもつわり重い人もいるもんね。私の友達も、それで入院しちゃったし」
「えー? 怖いなぁ。働けなくなるのも困るし」
「だから、無理してでも食べろって言ってんのよ」
ユキさんは、現在、妊娠5ヵ月だ。
しかし、上の子の育児と仕事をしながらなので、私よりずっとパワフルだった。
「ユキさんは元気ですよねぇ」
「何言ってんのよ。産んでからの方が大変よ? 女なんて、生理が始まった瞬間から、ずっと一生、大変なんだって。お義母さんも言ってたし。だから、こんなことでへこたれてんじゃないわよ」
元ヤンに背中をバシッと叩かれ、痛みと励ましに、私は泣きそうになる。
でももう泣かないと決めたのだ。