偽婚
その先に
頑張ろうと奮起しているのに、しかし思った以上につわりがひどかった。
梨乃の実家のお弁当屋で働き始めて、1ヵ月が過ぎていた。
「杏奈ちゃん、大丈夫? はい、お水」
「ありがとうございます」
私は体を起こし、グラスを受け取った。
先ほど、店先で貧血を起こしてしまい、さすがに寝転がらせてもらった。
足手まといで、迷惑ばかりかけているなと落ち込んでしまう。
「お客のピークも過ぎたから、今日はもう帰りなよ。で、そのまま病院に行きな。マジで点滴してもらって、鉄剤とか処方してもらった方がいいよ」
「はい。ごめんなさい」
「気にしなくていいよ。杏奈ちゃんのこと雇っただけで売上が上がったって、みんな喜んでるんだから。無理は禁物だよ。ね?」
優しいユキさんの言葉に、私は素直にうなづくことしかできない。
グラスの水をゆっくりと喉の奥に流しながら、私は必死で吐き気と涙をこらえた。