偽婚

その先に



頑張ろうと奮起しているのに、しかし思った以上につわりがひどかった。

梨乃の実家のお弁当屋で働き始めて、1ヵ月が過ぎていた。



「杏奈ちゃん、大丈夫? はい、お水」

「ありがとうございます」


私は体を起こし、グラスを受け取った。


先ほど、店先で貧血を起こしてしまい、さすがに寝転がらせてもらった。

足手まといで、迷惑ばかりかけているなと落ち込んでしまう。



「お客のピークも過ぎたから、今日はもう帰りなよ。で、そのまま病院に行きな。マジで点滴してもらって、鉄剤とか処方してもらった方がいいよ」

「はい。ごめんなさい」

「気にしなくていいよ。杏奈ちゃんのこと雇っただけで売上が上がったって、みんな喜んでるんだから。無理は禁物だよ。ね?」


優しいユキさんの言葉に、私は素直にうなづくことしかできない。

グラスの水をゆっくりと喉の奥に流しながら、私は必死で吐き気と涙をこらえた。

< 206 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop