偽婚
「……何、で……」


驚きに、目を見張る私。


どうしてここを知っているか、何で会いにきたのか。

次々と疑問は浮かぶが、しかしひとつも声にならない。



「杏奈」


名前を呼ばれ、びくりと肩が上がる。



「ごめんな。今までずっと、本当にごめん」

「……え?」

「俺の子供ができてるんだろ?」


頭が真っ白になった。

何でそれを知ってるの?



「今日、お前の友達に会ったんだ。会社の前で俺のこと待ってて。それで、お前が妊娠してることと、ひとりで産むために俺と別れたことを聞いた」

「……何を、言って……」


梨乃が、話した?

混乱して、上手く頭がまわらない。


梨乃は私の、一番の理解者だと思っていたはずなのに。



「そんなの嘘だよ! ふざけないで!」

「何が嘘なんだよ」

「全部だよ! 私は妊娠なんかしてない! 神藤さんには関係ないでしょ!」


大きな声を出した途端、血の気が引き、足元から崩れそうになった。

しかし、すんでで神藤さんの手に支えられる。



「おい、大丈夫かよ」
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