偽婚
「大丈夫だから、離して。触らないで」


それでも私は、気丈にその手を振り払う。


疑問は怒りに変わっていた。

私は携帯を取り出し、梨乃に電話をかける。



2コール目で電話に出た梨乃に、先ほど以上の大声が出た。



「ちょっとあんた、何考えてんの!? 神藤さんに何言ったの!? どうしてよ! 裏切り者!」

「想像通りの台詞」


怒り狂う私とは対照的に、電話越しの梨乃は、落ち着き払っている。

その態度に、さらに怒りが増した私は、唇を噛み締めた。



「ちゃんと説明してよ」

「それしかないって思ったから。高峰さんと話し合った結果だよ」

「は?」


高峰さんまで?

梨乃はため息を吐いた。



「お母さんから電話あったの。杏奈さぁ、今日、倒れたんでしょ? まだ安定期でもないのに、無理しない方がいいよ。みんな心配してるんだよ?」

「だからそれは私自身の問題で」

「あのねぇ、こっちも事情が変わったんだよ。杏奈の心配してる場合じゃなくなったの」

「何それ、どういう意味?」

「私も、子供ができたの」
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