偽婚
梨乃に、子供ができた。



「え? ちょっ、待って。意味がわからないんだけど」

「だーかーら、私も高峰さんとの子供ができちゃったの。それで、結婚して産むことにしたから」


衝撃で、怒りが一気に吹っ飛んだ。

私は間抜けに口を開けたまま。



「まぁ、そんな感じで決めたから、私はこれから自分のことでいっぱいいっぱいなのに、杏奈の世話まで焼いてらんないってこと」

「………」

「で、高峰さんと話し合った結果、やっぱりちゃんと、神藤さんに本当のことを伝えようってことになって」


梨乃がそこまで言った時、電話口の向こうがガサガサ鳴り、通話相手が高峰さんに変わった。



「ごめんな、杏奈ちゃん。俺らのことはまたちゃんと説明するけど、とにかく今は、神藤と話せよ。こんなことになったから余計に思うけど、ひとりで頑張るのだって限界があるんだから」


そのまま通話は途切れてしまった。


恐る恐る、顔を上げる。

目が合うと、神藤さんは大きなため息を吐いた。



「何か痩せたな。ちゃんと食ってんのかよ、お前」


神藤さんは、泣きそうな顔で、そっと私を抱き寄せる。

体が硬直したまま、動かない。



「気付けなくてごめん。ひとりにさせてごめん。辛かったよな? 寂しかったよな?」
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