偽婚
神藤さんの声は、震えていた。


涙が溢れてくる。

もう二度と泣かないと決めたはずだったのに。



「ちゃんと結婚しよう?」


神藤さんは、そう言って、私を抱き締める腕の力を強くする。

だけど、私はその腕の中で、首を振った。



「そうやって、責任取るみたいなこと言うってわかってたから、別れたのに」

「別に俺は、そういう意味で言ってるんじゃないだろ」

「でも、神藤さんは、ゆくゆくはちゃんとした人と結婚しなきゃいけないのに」

「何だよ、『ちゃんとした人』って」


またため息を吐き、神藤さんは体を離す。



「あのなぁ、俺は最初からずっと、相手の家柄とかで結婚したくないって言ってたろ。そんなくだらないこと気にすんな」

「………」

「確かに偽装結婚だったけど、俺は、家では息抜いて、笑ってたいんだよ。で、そういう家を作ってくれてたのがお前だろ。だから俺はお前のこと好きになったんだよ」

「………」

「大体、うちの親も含めて、まわりはみんな、俺らのこと夫婦だと思ってんだから、子供ができたなら万々歳だろ。あとはほんとに籍入れるだけだろうが」
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