偽婚
私の悩みを、神藤さんは『くだらないこと』だと切り捨てた。

溢れた涙が止まらない。



「俺の子だろ? 何でお前ひとりで背負おうとするんだよ。ふざけんなよ。俺だけ何も知らずにお前を苦しめてたなんて、ありえないだろ」


神藤さんは、きっと泣いているのだと思う。

でも私も泣いていたから、涙でよく見えなかった。



「杏奈」


神藤さんは、もう一度、私の名前を呼んだ。



「お前じゃなきゃダメなんだよ。結果的には子供ができたのが先になったけど、そんなの関係なく、愛してるから、俺と結婚してほしい」


同じ人から、二度目の、今度は本当の、プロポーズ。


私は神藤さんの胸に抱き付き、声を上げて泣いた。

泣きすぎて、上手く返事ができなかった。

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