偽婚
【end off……】
11月某日。
私と神藤さんが出会った日の今日は、神藤さんのお兄さんの命日でもあった。
私たちは、大きな花を手に、墓地を歩く。
「天気いいね」
「転ぶなよ。お前、絶対、転ぶなよ」
「私そんなドジじゃないって、何回も言わせないでよ」
「いいや、お前はどんくさいんだ。気を抜くな。もうお前ひとりの体じゃないんだぞ」
神藤さんは、小姑みたいに口うるさい。
私は笑いながら、お兄さんの墓石の前に立ち、手を合わせた。
「初めまして、杏奈です。事故の時、命を助けてくれて、ありがとうございました。っていうか、神藤さんと出会わせてくれて、ありがとうございました。あと、それから」
「心の中で言えよ」
「それから、元気な赤ちゃんが生まれるように、ずっと見守っていてください」
手を合わせ、大声で言う私を横目に、神藤さんは呆れ切った顔だ。
「つーか、お前こそ、俺を『神藤さん』って呼ぶのやめろって、何回も言わせんな」
「えー? でも、神藤さんは神藤さんだし」
「お前だってもう『神藤さん』だろ」
「そうなんだけどさぁ。今更、呼びづらいし。いいじゃん、あだ名みたいなもんだと思えば」