偽婚
つい先日、私たちは本当に入籍した。

でもそれより梨乃と高峰さんの方が先に、入籍していた。


梨乃は元々、生理不順だった上に、私のことにばかり気を取られていて気付かなかったらしいが、実は私と同じ頃に妊娠していたらしい。



「梨乃と高峰さんだって同じじゃん」


私の言葉に、神藤さんは、持ってきた花を生けながら、肩をすくめて見せる。



「まさかあの、どうしようもない女ったらしだった高峰が、素直に結婚するとはなぁ」

「それだけ梨乃のこと好きだったってことじゃん?」

「まぁ、高峰は、絶対に結婚なんかしないって言い張ってたけど、本当は人一倍、家族ってものに憧れてたんだろうな」


妾の子である、高峰さん。

でも梨乃の家族は、そんなの関係なく、相手がイケメン弁護士だということで、手放しで喜び、高峰さんを迎え入れた。


梨乃も、高峰さんも、家族に対するわだかまりが、少しずつ溶けて行っているように思う。



そして私は、新しいパートさんが採用されたのを機に、お弁当屋の仕事を辞めた。



「でもさ、神藤さんのご両親にも、今回のこと、上手く誤魔化せたみたいでよかったよね」

「『実は杏奈は妊娠していたんです』、『つわりがひどくて出歩けなくて』、『でもまだ安定期じゃなかったから言えなくて』だろ? 戸籍さえ見られなきゃ、大丈夫だろ」
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