偽婚
新生活
給料をもらった翌日に、店は辞めた。
家具や家電もほとんどを売り払い、まとまったお金を手にした私は、すぐに引っ越し業者に連絡して、翌週には神藤さんのマンションに荷物を運び込んだ。
「疲れた……」
ベッドと、ローテーブルと、あとはわずかな衣服しか持ち運ばなかったとはいえ、荷解きは夜までかかった。
ひとしきり作業を終えたところで、空腹に耐え兼ね、私はキッチンを拝借する。
シンクはピカピカで、ほとんど使用感がないことには驚いたけれど。
買い込んだ食材を広げていると、玄関先から神藤さんが帰宅する音が聞こえてきた。
「おかえりー」
「って、あれ? 何でいるんだ? あ、もしかして引っ越しって今日だったか?」
「連絡したじゃん」
「悪い。忙しくてすっかり忘れてた」
「いいけどさ。もうほとんど終わったし。それより遅かったね。また残業?」
「接待だよ。酒飲みながらビジネスの話するなんて、日本の悪しき習慣だよな」