偽婚
笑いながら言って、できたどんぶりをテーブルに運ぶ。

神藤さんは目を丸くしながら、それに箸をつけた。



「うまいな」

「湯がいただけだよ」

「でも俺、手料理なんて久しぶりに食ったよ」

「え? じゃあ、普段は何食べてんの?」

「ひとりの時は、仕事しながら、適当に済ませてた」

「飲食業の副社長なのに?」

「家ではただの、ひとり暮らしの男だからな」


その生活を想像すると、さすがに心配になってきた。

神藤さんが倒れでもしたら、私の生活だって立ち行かなくなってしまうじゃないか。



「ねぇ、だったら私、作ろうか?」

「マジか」

「だって、どうせ作るなら手間は同じだし。それに、ひとり分だと食材余りがちだしさ。食べてくれると私も助かるんだよね」


私の言葉に、神藤さんは、「じゃあ、頼むよ」と言った。

お世話になりっぱなしというのも気が引けていたので、自分に役割が与えられたみたいで嬉しくなる。



「てかさ、何でこんなに部屋汚くなってんの?」


前に訪れた時には綺麗だったリビングは、神藤さんの服が脱ぎっぱなしで放置されていた。

気にしないようにしようとは思っていたが、やっぱり気になって聞いてしまった。
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