偽婚
「掃除は、週に一度、ハウスキーパーを頼んでる」

「は? そんなの自分でしなよ。お金もったいないじゃん」

「めんどくさいんだよ。たまの休みくらい、ゆっくりしたい」

「なら、掃除も私がやっていい? こんなに汚くされたままの部屋で、1週間も過ごせないから」


仕事を辞めて暇になったとはいえ、毎日のように街に出ていては、お金も貯まらない。

それで家にいるなら、住環境は快適に整えたいと思うのは、当然のことだ。


私の勢いに圧倒されたらしい神藤さんは、「じゃあ、それも頼む」と、口元を引き攣らせながら返してきた。



「何か、俺、いきなり尻に敷かれてないか? 偽装結婚なのに」

「だったら余計、政略結婚なんてしなくてよかったね」


私の言葉に、神藤さんは笑いながら、「だよな」と言った。


偽装結婚とはいえ、共同生活だ。

笑い合いながら、その相手が神藤さんで本当によかったと、私は思った。



食べ終えた食器を片付けていると、煙草を咥えた神藤さんは、おもむろに立ち上がる。



「コーヒー飲むか? 淹れてやるよ」

「あ、じゃあ、私がするよ」

「いいよ。これだけは俺がやる」
< 28 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop