偽婚
日曜日。
遅めの朝食をとったあと、「たまには一緒に出かけよう」と言う神藤さんの言葉と共に、初めてふたりで外出した。
「わっ、ベンツだぁ」
「この車の性能がよかったおかげで、お前を轢き殺さずに済んだ」
「だからあれは何度も謝ったじゃん」
いつもみたいに言い合いながら、それに乗り込む。
左ハンドルで、皮シート。
「すっごいね。何だかセレブな気分」
「お前は何に対してもそうやって反応するから、新鮮で楽しいよ」
「えー? 今、私、バカにされた?」
「いや、素直に感情表現できて羨ましいって意味だ」
それってやっぱり、バカにされている気もするが。
でも今は楽しい気分を台無しにしたくなかったので、私は神藤さんの言葉を聞き流しておくことにした。